東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2104号・昭46年(ネ)2099号 判決
二 前叙争いのない事実及び認定事実によれば、三郎(仮名以下同じ)は、また、第一審原告と離婚をしておらず、第一審原告は、法律上、依然として三郎の妻なのであるから、第一審被告の前認定の行為は、三郎の妻としての地位に基づく第一審原告の名誉を傷つけ、第一審原告に精神的損害を与えた不法行為であって、第一審被告は第一審原告に対しこれに基づく慰藉料を支払うべき義務があるものといわなければならない。
第一審被告は、第一審原告は、三郎の妻としての地位を放棄し、戸籍上の妻ではあっても実質上は妻といい難いような状況にあったのであるから、婦権を行使することができない、とし、又、仮にそうでないとしても、三郎が第一審被告との間に前認定のような情交関係を結ぶに至ったのは第一審原告の妻としての義務の不履行に起因するものであるから、第一審原告の第一審被告に対する慰藉料請求権は否定されるべきである、と抗争する。
しかし、妻としての法律上の地位は、その性質上放棄に親しまないものであり、離婚その他の事由によって婚姻が解消したときはじめて失われることとなるのであって、たとい、前認定のとおり、遅くとも昭和四一年頃までには第一審原告と三郎との夫婦関係がすでに事実上ほとんど破綻していたとしても、第一審原告は、三郎が第一審被告との同棲生活をはじめていた昭和四二年四月頃以降もなお、三郎に対して夫としての貞操を守り、妻である第一審原告と同居すべきことを求め得る地位にあったものといわなければならない。又、前認定の事情によれば、第一審原告と三郎との夫婦関係が事実上ほとんど破綻するに至ったについては、主として第一審原告に責任のあったことが認められ、そのことがひいては三郎と第一審被告との間の前認定のような情交関係を惹起せしめる一の動機となったものと察せられるが、前叙のとおり、三郎と第一審原告とはいまだ正式に離婚の手続を経ておらず、又、すでに離婚の見込が十分に立っていたというわけでもないのに、第一審被告は、右の事情を知りながら、第三者の女として三郎との同棲生活をしたことはともかくとして、前認定のように三郎の本妻ででもあるかのような振舞をするに至ったのであるから、第一審原告は三郎の本妻としての地位に基づく名誉を侵害されたものというべく、特段の事情の認められない本件にあっては、第一審被告による前認定の不法行為の違法性が阻却されるものともいえないのである。従って、第一審被告の右主張は、いずれも理由がないものというほかない。
(石田哲 小林 関口)